秋色の北海道

9月30日(日)

 今日は朝7時の出発。したがって5時に起きた。もっとも則は3時半には起きていたが。荷物の整理をして、外に出てみる。外気温9度。でもそう寒いわけではなかった。その後フロントによったがまだ会計ができていないと言うことで、荷物をいったん下ろし、会計をして朝食を食べる。朝食後いったん部屋に戻り、それからバスへ。そのころどうも知床遊覧船が出ないと言うような声が聞こえてくる。バスが発車してその話が本当だと言うことがわかった。晴れているのに。そのわけは波が荒いのだそうだ。その悔しいという皆の声を乗せながら、バスは知床五湖へ向かう。

 途中自然センターでネイチャーガイドの方を二人乗せ五湖の駐車場へ。知床五湖は順さんは初めて、則はおそらくは3回目。もう昔のことで、ほとんど記憶はない。五湖の散策はほとんどのツアーが最初の2湖だけの見学で終わる場合が多いそうだが、我々のツアーはガイド付きですべてを回る。それでも2時間くらいで回るので、散策のスピードそのものには文句はないが、解説がひっきりなしに行われ感傷に浸るというようなわけにはいかない。則の感想では、前に見たときは五湖の違いがもっと明確であったような気がするが、今回は何か特徴が失われているような感じだった。それでもガイド付きというのはよい。たとえば、木の皮が剥かれて死に絶えてしまった木に注目した解説。木は木として生きていくためには樹皮が重要だと知った。この散策中にも見たが、よく木の中が空洞になってもなおその生命を保っている木があるが、それは樹皮が残っているからなのだ。またその樹皮をはいでしまった主についても説明があった。裸にされてしまった木の多くはダケカンバで、その樹皮は比較的柔らかい。木に歯形が残されている。鹿が食べるのだそうだ。それも鹿が届かないだろう高さまで剥がされている。これは冬の積雪時に何もなくなった時に多く食べられるかららしい。そしてその特徴的な歯形は、鹿はあまり上の歯は発達しない動物らしく、下の歯で削ぎ落とす為に出来るものなのだそうだ。こうした事情で、唐松のような堅い樹皮の木々は鹿は食べない。それでもそれらの若木がちょうど鹿の高さくらいのところでほんの少し剥がされているところがある。これは角を磨いた後なのだそうだ。鹿は旨い樹皮と角を磨くのに適した樹皮の区別をしっかりとしているわけだ。熊もまた樹皮に爪痕を残している。ただしこちらは木に登った後をつけているだけ。手の形をした爪痕は登るときのもの、3本の直線は一気にづり落ちてくるときのもの。

 さて中止になった観光船は知床半島を海側から眺めるものであった。既に我々は何度かそれに乗っているので今時期は熊が出ると言うことだが、その楽しみくらいのものだから、さして残念感はない。その観光船から見る風景の多くは、断崖絶壁とそこの上からほとんど海の直接流れ落ちる滝の見学だ。長い間の流氷や波での浸食作用がおそらくはなだらかな場所をそうした断崖絶壁の地に変えたのだろう。もともとこの大地は火山の爆発による溶岩流の作ったものだと言うことだから、浸食作用に弱いのだろうか。ところで五湖はその断崖絶壁の上のテーブル状の比較的平らな大地に存在する。うっそうとした古代からの自然林の中を散策するルートがついているわけだが、したがって木々の根を下ろす先は溶岩台地と言うことになり、深くは根を張れない。従って相当の大木でも、根は横へと広がる構造になっている。それは倒壊木で知ることが出来る。森の中では老木の倒壊によって一定のサイクルが出来ているのは周知のことであったが、ここではしたがってあまり大地に養分がないから、空間が出来た土地に生える若木(みしょう)のうち、そうした倒壊木の上に落ちた種が生存競争の上では最初は有利なのだという説明も受けた。そのような説明を聞きながら五湖を散策した。

 もちろん湖というか5つの湖沼の水面に映る山々の説明も受けた。高い山々には砂糖をまぶしたような雪が見えた。初冠雪が既に記録されていると言うことで、山々も少しずつではあるが紅葉が始まっている。硫黄山は元々吹き上げている硫黄の白さがあり、あまり雪との区別をつけるのは難しかったが、羅臼岳などはそれが雪だとはっきりわかった。この羅臼岳は昨日の木々の紅葉した美しい姿から、こちらからは比較的切り立ったあらわらしい姿が見えて、その対比に興味が引かれた。湖の周りを回るように遊歩道の出来ているたとえば第二湖のようなところでは、半周すると湖面に映るあるいは遠望できる山々の姿も変わる。しかしながら我々はそうした山々を覚えきれないので、その美しさを愛でるだけだ。山それぞれを認識されていれば、湖面に映る姿の変化も追えて楽しいことだろうと思う。

 ところで無知の我々にとってさらに惜しいのは、鳥たちの名称もあまり知らないことだ。我々はネイチャーガイドからそれぞれ双眼鏡をわたされていた。だから山々の細かい姿も比較的よくわかったわけだが、鳥は見つけるとその美しさが手前に引き寄せられるので、これまでなかった感動を味わえた。時には鳴き声さも聞かせてくれたものもある。また枯れた大木に住みついた虫をキツツキが食べるために掘った子供の拳が入るくらいの無数の穴があいた木やキツツキの仲間としては大型のカラスの頭に丹頂の頭の赤い部分を載せたような形のクマゲラが巣のために掘った大きな穴も見た。この穴はアイヌが丸木船を着想したものとの伝説さえあるという。

 一方四つ足の動物にはあうことは残念ながらかなわなかった。もっともこの地域は熊の生息密度が世界的に見ても高いところだそうで、熊に出会うということはなかったのは幸いなことだが。もっとも印象的なのは、箱庭のようになった第五湖だったように思う。解説してくれたガイドさんも同様な印象を語っていた。第五湖からは比較的単調な道が駐車場まで続く。バスの音などがしてくるとしばしの現実世界からの隔離から引き戻されていく。こうして知床五湖散策は終わった。(第一湖:7時57分〜8時13分・第二湖:8時25分〜37分・第三湖:8時40分〜9時13分・第四湖:9時23分〜27分・第五湖:9時32分〜38分)

 五湖からすぐ近くの自然センターへ向かう(10時12分〜11時滞在)。前にまだ雪がある頃来たことがある。前には見ることが出来なかった巨大スクリーンの知床の四季の移り変わりを見た。20分くらいで500円(我々は団体割引で400円)は少し高い気がしたが、たてられている地を考えれば致し方のないものなのかもしれない。でも映像もそう感激するようなことはなかった。少し休憩の後に、ウトロへ戻る。

 ウトロの我々が今回世話になった斜里バスのバス乗り場の駐車場脇を流れる川(ペレケ川)で鮭の遡上を見学(11時5分〜27分)。もどかしいくらいに上らない。川岸に打ち上げられている何匹もの死体があるが、それらも皆やせ衰えている。映像でこうした姿はよく見るが、現実を見るのは大違いだ。そこは川岸まで降りられるようになっているので、ほとんど鮭を捕まえることさえ出来る(それは禁止されている)ところまで近づくことが可能だ。今回のツアーは皆比較的時間厳守というか、少し早いくらいの集合だったが、ここでは添乗員がそろそろいきましょうかというくらいに皆楽しんでいた。おそらくはこの時期しか見られないわけだから、大多数が初めての経験だったのだろう。

 そこから港へまた戻り、そこで昼食をとる(11時30分〜12時30分)。昼食後港我々が食事の場所から階下へ降りていくと修学旅行生徒と行き違った。やはり修学旅行シーズンなのだろう。さて食事後店の前にある港へ出てみる。その防波堤の外側に打ち付ける波が防波堤の高さを超えてみることが出来て、ようやく我々は観光船が欠航した理由を理解した。漁も今日はなかったということだ。観光船もここ数日は欠航したままだそうだ。

 ウトロを後にしてバスはこの旅行でもっとも楽しみにしていた珊瑚草を見に能取湖へ向かう。道々には菜の花のように「キカラシ」の花がはたけ一面に咲いているところがありきれいだった。途中網走の町を通り(13時55分頃から)、いくつかの観光名所をバスの車上から見学した。我々は何度か来ているのでまぁこの程度でもよかったが、降りてみたい人もいただろう。網走の市街を抜けると程なくして能取湖到着(14時15分〜35分)。珊瑚草が一面に広がっていると思いきや、そう広大な広さではない。しかも所々は欠損した土地もある。聞けば排気ガスの作用かと、非常に残念だ。我々もバスでの乗り入れだから大きなことはいえないが。それと時間がどういう訳かここはえらく短かった。我々はここをメインの一つと考えていたから、必死になってシャッターを押した。まぁしかし客観的に見ればここは多くの人には知られていない土地だろうからこのくらいのものだろうか。それといまひとつ珊瑚草のパンチがなかった。もうつまりは季節がハヅレかかっているせいだろうか。天候のせいもあるだろうけれども、ぼやけた感じは否めなかった。それでもねんがんの恋人に巡り会えた感じで、短い時間を堪能して能取湖半を後にした。

 能取湖からは一路層雲峡温泉へ向かう。途中温根湯でトイレ休憩(16時〜16時20分)。ここは以前来たことのある道の駅での休憩だ。ここで温根湯名物の白い豆の甘納豆を買う。17時に石北峠を越えてた。ここを超えればもう目的地の層雲峡は近い。17時30分ホテルへ到着した。

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